考えてみりゃあ、あの炭酸水ブームなんて10年近く昔じゃねぇか? タイトル(兼コンセプト)の「空想百景」と一緒に書き込まれ、忘れられていたんだからなぁ。
ブーム、といっても家庭内の流行だ。しかし、夏が来るたび数年続いたんだから立派なモンだろう。大抵は下の妹が火付け役となり、アイスやスナック菓子といった食品からTV番組まで野火の勢いで一家を巻き込む。そして唐突に、妹が飽きると下火になる。げに恐ろしきは末っ子パワー。
しかし、この炭酸水は違った。僕が初めてペリエを買ってきた所から始まる。
いやいや、(たかがペリエ)と呆れるなかれ。当時は今ほどメジャーな代物じゃなかったと思うぞ、僕だって知ってはいるけど知ったかぶりレベルだった。大方の人間は、まさかあの小洒落たボトルの中身が単なる炭酸水とは思ってなかった筈だ。プラスアルファが無い訳ねぇよな、と思い込んでいたのに。飲んでビックリ!
(なぁんだ、こりゃ炭酸水じゃあねぇか)
味覚というものは面白いもので、期待なり想像なりの先入観があると、たとえ美味くても予想から大きく外れたらアウトなのだ。思い込みが強いほど、ギャップの大きさが味を左右する。
話はそれるが、初めて食べたアボガドね。あの爽やかなグリーンで、まさかベタな味とは思わないでしょ? アボガドに罪はないけど、まるで騙された気分だったぜ。今も最初の(無垢な裏切り)が味に障る。つまり、出会いの気まずさが後を引いてるってコト。
ついでに思い出したんだけど。小学生のとき、持ち帰りの鮨を買ってきたのね。僕の好きな赤身の握りが入っていて、楽しみにして最後に食べたら奈良漬けだった事があったのよ。漬物で握るな! ってのもあるけどさ、まさか刺し身と思ったら(ポリッ)なんて歯ごたえ良いなんて罪だよね? 最初から分かってたら、きっと食う気も起きなかったろうけど…。
ま、それは置いといて。ペリエの話ね、ただの炭酸水にしちゃあ結構な値段だ。
逆に言うと、普通の炭酸水なら安い事に気が付いたんだ。寝苦しい夏の夜、ビールやコーラみたく飲んだ後に味が残らない。トニックウォーターなんかより口ざっぱりしていて値段も安い。それから毎年、夏になると冷蔵庫には買い置きの500mlボトルがゴロゴロしてるようになったのでした。
当時、茶の間にあったラタン(籐)のカウチでゴロ寝して、BGMは「ゲッツ/ジルベルト」。夜は自室で池波正太郎と炭酸水だった。
父親のような典型的サラリーマンに憧れながらも、自分が生きたいと思う、気持ちばかりで見つけ出せない別の方向との間でグルグルだった時代。その後の数年で変換期が訪れるなんて、まさか知る由もなかった・・・。
そんなターニングポイントを経ても、僕は未だにフリーターなのだけど…。
平成15年7月15日

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