2003年07月15日

03*風物詩

 この時季になると、雨の日はミミズのカーニバルだ。
 子供のころ住んでいた団地では「ドジョウすくい」と称して、消防車がドジョウ入りの雨を降らせる日があったっけ。年に一度、敷地内の道路の広くなった場所にパンツ一丁の子供らが集合して路上のドジョウつかみ取り。ありゃあ何だったんだ?
 雨に踊りだすミミズを見ると、僕はあの(微笑ましくも奇妙な習俗)を思い出す。びちびち撥ねるミミズを、ドジョウのように握り締めたくなる。
…というのは冗談だけど、そろそろ近所では(蛙の干物)が登場する。これも初夏の到来を知らせる、この地区限定の風物詩だ。って、他でも同様なのかもしれないけれど、見聞きした事がないもので。

 どうも蛙って生き物は夜になると出歩くらしく、僕がお目にかかるのは日中のアスファルトで平面蛙と化した状態だけ。車道の隅っこで、二次元の断末魔をあげるヒキガエルだかガマガエルだか。
 そういえば幼稚園に行く時間帯に「アンデルセン物語」ってアニメやってたなぁ。ズッコとかいうキャラが出てくるやつ…。そんで、夜になると魔法で蛙になっちゃう王子の話があったんだよね。おかげで今も(夜+蛙=王子様)っていう妙な図式が残っちゃってて、干物を見るたび何とも言えない気持ちになるんだよなぁ。
 ところで我が家は犬を飼っていて、僕は夜の散歩に同行するのね。ある夜、歩道の真ん中に大きな石ころが落ちてて、危なっかしいと思って蹴ったら蛙でさ。線路脇の草むらに飛んでったけど、あんなデカい蛙が東京の下町に転がっているなんて思わないって。

 近所には良い公園があって、夏の夜になると蝉の幼虫が次々と羽化する貴重な場所だったんだ。約一年前に移転するまではね。小さいながらも木々の植えられた芝生があったし、金網に囲われた運動場もあったし。
 でも、未だに跡地は掘り返しただけで放ったらかし。そこを浄水場にするってんで、L字型の道路の斜向かいに公園を移したってのに。この夏、羽化する筈だった幼虫たちは知らずに重機に押し潰されたんだろう。蝉は7、8年を地中で過ごすというから、2010年分ぐらいまでは根絶やしにされた計算になるかな。諸行無常。
 夏の夜、足元を横切る蝉の幼虫に出くわした驚きといったら! 自分の家の近所でさ、まさか生きて動く彼らに遭遇するとはね。生まれて初めて見たんだけど、本当に健気な動きで精一杯よじ登ってく訳よ。で、木の幹を縦横に走り回る蟻ンコに気が動転して「あわわ〜」って落ちちゃうの。

 でもさ、実は昔ながらの自然とかじゃなかったんだよね。蝉と出会った公園だって、今は小学校の校庭になってる場所から十数年前に引っ越してきたんだって。それがまた役所の都合で移されただけなんだ。元セメント工場跡地で、池も芝生もない、悪い意味で今風の公園に作り直されて。
 蛙にしても、池もないのに一体どこで孵化してるのか不思議でならない。でも毎年、どこからかノソノソやって来るんだよな〜。蝉も、そんなカンジで人の都合より一枚上手で生き残ってきたんだろう。
 先日の夜、公園内を通り抜けてゆく自転車の親子が「デカかったねえ」と話している声を耳にした。昨日の夜は、僕もナマの蛙を見た。公団住宅の管理下におかれている公園の中で。
 そんな訳で、夏なんです。

 平成15年7月15日
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posted by tomsec at 18:14 | TrackBack(0) |  空想百景<1〜10> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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