2003年12月02日

29*雑貨屋Sと味の世界

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 家の、すぐ近所にSという雑貨屋がある。昔ながらの雑貨屋だから、もちろん舶来品なんて置いてはいない。駄菓子からタワシまで、ベタベタに身近な小物であふれている店だ。ここに越してきて20年以上経ち、周囲の景観は変わってゆく中で相変わらずイナタイ店構えでやってる。
 それはそれで味があり好きなのだが、以前から店の主人が苦手だった。顔を合わせると「よお、今日はどうしたぃ?」と話しかけてくる。といって別にこちらを見知っているからでなく、さりげなく情報収集をしているのだ。とぼけた口調で所在を聞き出し、中途半端な時間帯に行けば「仕事、何やってんだっけ」と探りを入れてくる。下心なんてないのは分かる、下町に生まれ育ったオヤジの性なのだろう。ウザい上にゲスを絵に描いたような風貌で、母や妹なんかは一切利用しないが。

 しかし便利には違いなく、ちょっとした空腹とかタバコを切らした時に重宝しているのも事実。夜中に電球が切れた時も、11時過ぎまで開けてるのは有り難い。それでも最近は僕も(あそこで買う位なら、駅前まで行くか)と思うようになってきた。その原因は、みかんの不味さだった。
 口の悪い妹に言わせると「あそこの青果は昔っから腐ってた」という事らしいのだが、確かに品が悪いとはいえ食えない程ではなかった。それが近頃、買うたび後悔させられる事ばかりなのだ。袋に1個ぐらい痛んでるのがあっても仕方ないと思うけど、中身が干からびてたり皮が中身に張り付いて剥けなくなってるのばかりでは腹が立つ。20個入りで5個しか食えない! 妹いわく「仕様がないじゃん、それがSなんだってば」

 雨の日に傘差して帰り道、通りすがりの八百屋の店先に、カーバイト光に照らされて美味そうな果物…。いやいや、手荷物が増えると傘が持てないし。そう言い聞かせながらも、間もなく家の明かりが見えようかという場所に雑貨屋Sがある。降参々々、こりゃあ買うしかないよなぁ。このところ毎回、そういう思考ルーチンで不味いミカンばかり食っている。今度こそと期待して手に取る1個、3袋も購入したから45個の期待を裏切られ続けたら(頑張れ小売店)という思いはあれど0勝45敗15引き分けのミカンではいけない。
 食べたい気持ちがイメージする美味しさに遠ければ遠いほど、欲求不満は高まり不味いと感じるものだ。CMで肩透かしを食らうのが、このパターンだろう。そして、それとは微妙にズレるのだけれども「イメージした味と実際が違っているほど不味いと感じる」という事もある。Sで買った、グレープフルーツの缶詰が正にそれだった。ま、買う方も買う方なんだが。

 どうも僕は目新しい物に弱い。というか、どこかで心地良い裏切りを期待しているのかもしれない。中学の時にオシャレ雑誌でカンパリソーダなる飲み物を知り、酒屋の安売りでまとめ買いをしたのが始まりだった。僕が勝手に思い描いた(マイアミビーチの午後の味)と全然違っていて、その時からカンパリ=不味いと決まった。その後も、コーヒーの炭酸割り的なジュースで失敗していたりする。
 それはともかく、グレープフルーツの缶詰。缶切りで開けたら、出てきたのは煮しめたカズノコみたいな代物だった。缶ミカンの鮮やかさと比べて、何故こんな色を付けてしまったのか理解に苦しむ。しかも独特の苦み走ったシロップで胃がムカムカした。この場合は見た目が美味そうだった訳ではないが、はるかに予想を上回る不味さだったのだ。

 もっと分かりやすいケースでいうと、メキシコ旅行の「チョコだと思ったらモーレ・ソース事件」がある。モーレ・ソースは、世界3大ソース(なんかトムヤムクンみたいにウソくさいが)の一つと言われている、メキシコ料理に欠かせない調味ソ−スらしい。それを板状のルーに固めた物が、現地のスーパーで売られていた。それは一見、知らない人間にはどう見てもプレーンなチョコレートケーキだったのだ。
 一緒にいたメキシコ人に「指で取ってなめてみろ」と言われたのだが(そういう事は問題ないようだ)、僕は当然のように甘い物だと認識して躊躇なく口に入れてしまった。あれほど、見た目と実際の味覚にギャップがある経験は二度とないだろう…願わくは。最初に物凄い違和感だけがあり、次の一瞬には咳き込みながら「おえ〜!!」と叫んでしまった。超甘口カレーのルーを、親指一本分ぐらい食べちゃったのだ。しかもチョコケーキだと思い込んで。

 で、何の話だっけ? そう、見た目と味のギャップについて。ついでだから書くが、山口県のスシの話。ちょうど持ち帰り寿司が流行り出した頃で、小学生の僕は好物のマグロを最後に残して折り詰めを食べていた。いよいよメインディッシュ! と思ったそれは、口に入れたら赤身ではなく奈良漬けの握りだった。まだアボガド巻きなどというニューウェーブ寿司が話題になるより数年早く、山口県の持ち帰り寿司店で。漬物を握るなっての、オニギリじゃねえかよ。
 あと、韓国の高麗人参ガムね。これは逆に案外いけた、さすが奥地の恋人ロッテだけはある。ゴボウみたいな独特の土臭さを美味いと感じる、そんな意外さも含めて。パッケージは板ガムのコーヒー味に似た色で、ちゃんと高麗人参のイラスト入りだった。
 とまぁ、とりとめなくも趣旨一貫した話題ということで。

平成15年12月2日

posted by tomsec at 23:00 | TrackBack(0) |  空想百景<21〜30> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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