2005年05月27日

メキシコ旅情【旅路編・2 事情】

 メキシコと聞いて即座に思い浮かべるのは、タコスにテキーラにソンブレロ? あとはせいぜいマリアッチとルチャ・リブレ…。イメージとしてはその程度だ。実際のところ、僕は何も知らなかった。
 僕の向かったカンクンは、そんな予想と違っていた。

 メキシコは南北に細長く、文化的にも南と北では大きく異なるようだ。
 大雑把な言い方をしてしまえば、北が荒野のサボテン地帯で、南は古代文明の眠る密林地帯って感じか。一般的にメキシコと言えば、アメリカ寄りの北部がそれに近い。南のほうは、マヤ文明とインディオとジャングル! とはいえ、カンクンが辺境の土地かと思ったら大間違い。
〈地球の歩き方・メキシコ編〉によると「特にビーチのきれいなカンクンは、高級ホテルの林立する国際的リゾート」と書かれていた。メキシコで最も物価の高い場所かも知れない。僕はもっと、のどかでこぢんまりとした田舎町を期待していたのに。マリンスポーツだとかレジャー施設なんて、旅の雰囲気を台無しにする物は邪魔なだけだ。いかにも観光地ってのも、それ目当てに集まる人種にも用は無い。
 トニーがくれた絵はがきには「ディスコとビキニ・コンテストに行こう!」と書いてあった。もちろん、それぐらいは行くさね。でも、エドベンは一体どんな所に住んでいるんだ?
 まさか目抜き通りにジュリアナ御殿!…なんてことはないよな、いくら彼が「ジュリアナ東京」大好きだったからって。だけど、そんな高級リゾート地なんかに住んでるとしたら有り得なくもないか。まったく想像が付かないけど。
 ま、予算の都合からいってもノンビリ何もしないのが一番。この際だからと夢ふくらませて「遺跡ツアー&カリブ・クルーズ!」ってな気持ちは山々であるが。
 この旅は、とにもかくにも所持金=全財産なのだった。毎日の食費+αと、帰国後の暮らしを無視するわけにはいかない。湯水のように使い切ったら、後が辛くなる事は目に見えている。
 帰国予定日は、来月の18日。帰ってくれば家はある、実家暮らしは気が楽だ。僕はすでに無職なのだから…。

 一日遅れで、いよいよ空の旅だ。アメリカのテキサス州ダラス経由で、目的地カンクンへ。
 飛行機は日本人をいっぱい乗せて、ダラス・フォートワース空港に向かっている。到着予定は7時半頃で、出発時刻から2時間の逆戻りになる訳だ。ところが実質上は半日も、狭い機内に縛り付けられるってんだからややっこしい。まるで、割のあわないタイムマシンだな。
 クルーはみんな日本人か、と思ったら聞き慣れない発音の日本語だ。エコノミー最前列右端の、窓のない一人掛けに座る。機内スクリーンは見えないが、なんてったって相席じゃないから気が楽で良い。しかし禁煙席なので、僕は喫煙場所とを行ったり来たりする羽目になった。億劫だけど一服できるだけ有り難い、それに喫煙席で12時間も煙に巻かれているのに比べれば上等だろう。ただでさえ機内は空気が乾いているのだ。
 シートのすきまから振り返り、後ろの席の窓から見えた景色は海と空だけ。僕が何度も顔を出すので、窓際の人はさぞかし薄気味悪いことだろう。申し訳ないとは思うのだが、こちらとしてもやむを得ない退避処置なのだよ。というのも、この席の前はトイレなのだ。正面を向いていると、ついトイレを出入りする人と目を合わせてしまってバツが悪い。その上ふて寝しようにもバタバタ落ち着かないし、読書するには気が散って集中できなかった。
 ただし、気休めがまったくなかった訳でもない。トイレ手前の壁に、僕と向かい合わせに乗務員シートがあった。アジア系の男性クルーが座ったので、退屈しのぎに話しかけて英語思考の訓練に付き合ってもらう。座席は一対一のお見合い状態、逃げ場のない彼は延々と日本男児の主張を相手する事になってしまったのであった。
 
posted by tomsec at 15:40 | TrackBack(0) | メキシコ旅情2【旅路編】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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