僕は夜中に何度も目を覚ましてしまった。昨日、昼寝をしたからじゃない。
慣れないアマカは眠りにくかったので、夜は折りたたみ式トランポリンみたいな簡易ベッドで寝たのだ。しかしそれもサイズが少し小さくて、寝心地が良いとは言えなかった。断続的な浅い眠りで、冬眠中にほじくり返されて狭い穴へ潜り込もうとする虫けらの心境だ。すっかり身体の隅まで冷えきってしまい、諦めて目を開けると薄暗い部屋に朝の気配があった。
(なんでこんなに凍えるんだ? まだ9月なのに…っていうか今はメキシコじゃなかったっけ…?)
壁のクーラーが妙にやかましい、見れば温度設定が21℃まで目一杯下がってやがる! トニーの仕業だな。やれやれ、朝の7時じゃねぇか…。電源を切って、室温が上がるまで外に逃げよう。そおっとドアを開けたが、やはりガタピシと音を立てた。刺すような光と熱気が、固まりになって押し返してくる。一気に解凍され、爽やかな空気を吸い込むと新たな一日が始まってしまった。空は一点の曇りもなく晴れている。
メキシコだ! 目に映るすべてに興奮し、身震いするような感動を覚えた。
日差しは強いけれど、夜の空気を残した風が気持ちいい。階段下の流し場で顔を洗うと、鈍い頭痛も徐々に薄らいでいった。部屋に戻るとまだ冷蔵庫並みの温度で、これならコーラも充分に冷える。毎晩この調子かと思うと気が滅入るぜ、かといって、まさかトニーのベッドに入れてもらうのもゾッとしない。僕は常に微熱寸前で、それ以下の体温では動かないのだ。これだけは改善してもらねば、体がもたない。
一服つける。今まで吸った(起きぬけの一本)の中で、最高に旨い。気分は渋めに藤竜也。
ふと階段を見上げて、上ってみたい誘惑に駆られる。ちょっと迷うが、ここは起き抜けの大胆さがモノを言う。雰囲気あるんだけど、その無責任な日曜大工っぽさが曲者だ。見るからにコンクリのブロックを積んで、ちょいっと塗り固めただけの素人仕事だ。ひょっとしたら誰も使っていないかもしれない、そう思いながらも上ってしまうのだった。
さすがに、石橋を叩いて渡る慎重さで足を進める。右の手すりの向こうは隣家の敷地、なるだけ左に寄って転落だけはしないように。見下ろした感じ、とても二階建てとは思えない高さだ。各階の天井が、日本の建築基準より高めに造られているに違いない。
案外と見た目より丈夫な階段で、何事もなく屋上へ。視界はすこぶる良好、眺めを遮る建物なし。三方向を金網に囲われていて、中央に物干し竿が幾つか渡してある。そして無数のロープが竿から金網へ滅茶苦茶に張り渡されていて、ちょっとしたインスタレーションというか宇宙グモの巣みたい。打ちっ放しの床に寝転んで日光浴&朝寝と決め込みたかったが、やたらと落ちてる犬のウンチに断念。またこれが野太いんだ!
トニーが10時に起き出す前に、僕は空腹に耐えられなくなってきた。
2005年05月27日
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