トニーの部屋に荷物を下ろすと、息つく間もなく「さあ出かけよう」と言われた。おいおい、ちょっと待ちなよ水の一杯も飲ませなよ! と言いたいところだが、頭が全然まわってない。
「すぐに冷たいコーラと、ウェルカム・ランチを御馳走するから」とトニーに畳み掛けられ、すんなり承諾レッツゴー。
家の前の道は、左に大きく弧を描いている。幹線道路は別として、住宅街は直線でなく円で区切られてるようで独特の印象だ。ひび割れた歩道、家々の風情はどことなくサンタフェ。動くものは何もない真午の静けさ。う〜んメキシコ。
トニーが「スペイン語のテキストをコピーしたい」と言うので、仕方なくメシの前にコピー・ショップへ。大通りに面して、デカデカとゼロックスの横断幕を張ったコピー専門店が。今どきコピーなんざコンビニの隅っこでセルフサービス、という日本の常識は通用しない。店内は殺風景な銀行みたく静まり返って、客は黙々とカウンターの用紙に記入して並んでる、原稿を渡して待つこと数分…。効き過ぎの冷房に、巨大なボトルを逆さにした冷水機。喉の渇きは収まったけど、全身の汗が冷えて腹が痛くなってきやがった。
やがて店員が奥からコピーを両手で掲げて出てきて、そのうやうやしさ加減に笑っちゃってトニーにたしなめられる。ちょっとしたペラ一枚でこの有様とは、日本と大違いなのは気候とか習慣だけじゃないんだな。
コピー屋を出て延々と歩く。真昼の熱気で腹痛は治まったものの、なんとセントロ[旧市街]まで行くと言う。エドベンの家から賑やかな中心部まで、軽く2qはありそうだ。まともな状態なら近場で済ますよう説得してる所だが、僕は自分がギブアップ寸前という事も判らない状態だった。この間まで屋外プールでバイトしていたので(炎天下には慣れてる)と高をくくってたのが甘かった、旅疲れ&空腹+暑さで完全グロッキーに。
それでも僕らはガイドブックお薦めの店を捜して、本を片手にセントロをうろつき回った。散々と無駄足を踏んだ挙句、目先のメキシコ料理店で妥協する。客引きのオジサンは胡散臭いし店内はがら空きだったが、こうなったらノ・プロブレマだ。オジサンはウェイターとコックを兼ねていて(ということは店主だったのか)、最初は小悪党顔に思えたが案外と真面目な商売人のようだ。
先ずはコーラを一気飲み、体内にこもっていた熱が抜けてゆく…。それにしても、やっぱりコーラはこのボトルでこのグラスだよなぁー! もうすっかり僕らは元気になって、笑いながら、もりもりタコスをたいらげた。長いながい一日は、まだまだこれからだ。
間もなくメキシコは、シエスタ[午睡]の時間に入る。そして日本は今頃、明日の夜明けを迎えようとしているだろう。僕の頭の中に、太陽から見た丸い地球が思い浮かんだ。
2005年05月27日
この記事へのトラックバック