2005年05月27日

メキシコ旅情【水源編・4 水厄の日?】

 海からの帰り道は、装甲車みたいな銀色のバスに乗った。車内は汗くさいような匂いがしたけど、座った途端に睡魔が…。うたた寝してるうちにセントロ到着、そこからは子供達の手を引いて歩く。寝汗をかいた体が重い、部屋に入ると簡易ベッドに倒れ込みシエスタ。
 寝起きにシャワーを浴びていると、トニーはスケート道具を担いで出掛けていった。タフだよなー。
 喉が渇いた僕は、給水機の水を飲もうとして止める。トニーが、この大ボトルから水を飲んでいるのは一度も見た事がない。何ガロン入っているんだか知らないが、いくら飲料用でも古い水か心配だった。それに第一、部屋にはコップに使えそうな代物が見あたらない。
 もう少し我慢して、ポスト・カードを出すついでにコーラでも買おう。大通りの角に、文具も置いてる小さな雑貨屋「アメリカ」がある。まずそこでコーラを飲み、通りを渡ってメルカドの先へ。相変わらず何もない、激しく冷房が効いてる郵便局。僕も慣れたものだ、あまり手を汚さずに切手に糊を塗れるようになってきた。

 家の潜り戸をパティに開けてもらって居間に顔を出すと、ママがニコニコと「コメール[食べる]?」とか「コミーダ[食事]?」と尋ねてきた。なんか2人とは、これが挨拶代わりになっている気がする。すっかり腹心地が良くなった僕はソファーに腰を下ろし、壁の書棚に日本語で書かれた本を見つけた。
 ちょっと前に日本で流行った「3D写真」が3冊もあったので試してみる。説明どおり寄り目にすると、なるほど立体的! 面白がってやり過ぎた、目が疲れてクラクラ。
 他には、マヤに関する本も少なからずあった。しかも図版の少ない、新書の類いだ。いくらエドベンだって、ここまで日本語を読みこせるか? 大体、トニーも「エドベンは遺跡に何の興味も持ってない」と言っていたもんなぁ…。
 僕が書棚の前で考え込んでいると、パティが(部屋でゆっくり読んでもいいよ)といった仕草をする。僕は「ノ・グラシアス」と返事して、彼女に尋ねてみた。
「ケ・エス・エスト[これは何ですか]?」
「エスト[これ]、リブレ[本]?」
「シー[はい]。エスト、ハポネス・リブレ…リブレ・ハポネス? ムーチョ[たくさん]!」
「シー…?」
「ドンデ[どこ]、ノ[いいえ]、コモ[どんな]。…えぇとね、ホワイ?」
 僕が珍しく何かを訴えようとしていると、興味津々で忍耐強く聞いてくれるママとパティ。だが、同時にスペイン語で喋り出してもねぇ。ママの大声を制して、ジェスチャー付きでゆっくり解説してくれたパティによると、どうやら2〜3年前にも日本人が滞在していたようなのだ。新たな疑問が湧いてきたけど、くたびれたので二人に礼を言って二階に戻る。

 部屋に入ろうとした瞬間、右足の裏からおぞましい感触が…。レガロ!!
 やりやがったな、ジョディめ。間一髪でビーサンの上まで乗り込まれずに済んだのは、せめてもの救いだな。ひとまず部屋に入…れない?! よりによって、こんな事態なのに鍵が掛かってるし。まずはトニーを捜さねば。
 足跡で汚し回るのも厭だから、けんけん跳びで階段を降りて外に出た。何故かアスファルトが水浸しで、これ幸いとビーサンを擦って歩く。
 マカレナ公園の方から子供の声がして、見ると道路じゅうに色とりどりの端切れが。これは明らかに「水風船爆弾」の残骸だ、小さなゴム風船に水を詰めて投げつけあってるんだな。懐かしい、どこの子供も遊びの発想は変わらないのかね。
 みんなキャーキャー走り回っていて、ふと僕は厭な予感に駆られた。すでに全員ビショビショだ、そんな最中に…。ヤバいな、目立たぬようにトニーに近寄って小声で叫ぶ。
「早く鍵を貸して! 今レガロを踏んで」
「何だって〜?」
 彼も全身びしょ濡れで、僕の言葉など馬耳東風。早くも子供達にロックオンされ、十字砲火が浴びせられる。辛くも難を逃れたが、ビクトールの超特大水風船が突進して来た〜! トニーが先に逃げ出し、僕は「待って、早く鍵を」と追いすがる。
「OK、ほら。失くすなよ〜!」
 足を緩めて鍵を寄越すと、彼は横っ跳びにダッシュで離脱。そして案の定、丸腰の僕は火ダルマならぬ水だるま。

 連中の高らかな笑い声を振り切るように、家まで逃げ帰った。僕が冗談のつもりで愚痴をこぼすと、ロレーナは本気で怒り出してしまい「子供の遊びなんだ、おふざけなんだよ」と笑ってなだめる。
 まったく、とんだ災難だった。ともかくレガロの後始末、そしてシャワー・ルームで濡れた服とビーサンを洗う。が、まだオチがある。うっかりバス・タオルを用意してなかったので、開けっ放しの部屋で全裸のまま荷物を漁る羽目に。
 それから便意を催して「本日の2発目」をかました僕は、シャワーで水を使い切っていた事など知る由もなかった。事足りた後、階下でママに水栓弁を開けてもらってタンクに水が貯まるまで、僕のレガロは留め置かれる有り様となったのだ。

 (ちなみに、レガロとは本来[贈り物]を意味する言葉です)
posted by tomsec at 17:24 | TrackBack(0) | メキシコ旅情6【水源編】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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