四、五階建てのアパートから打ち鳴らされるディスコ・ビート、歩道には大勢の若者がたむろしている。
ホーム・パーティって聞いた筈だけど、建物全体でパーティやってるとも思えない。それに夜中だし、隣近所から警察呼ばれたりしないのだろうか…。どうか、揉め事に巻き込まれたりしませんように。
「こっちだよ。早くおいで」
エドベンを追って、若者を縫うように建物へ。入口は駐車場のゲート兼エントランスで、通路の中心部が吹き抜けになっている。見上げると上階の廊下が橋渡しになっていて、外観よりも開放的で洒落た造りだ。
ビートが強くなってきた、と思ったら通路の奥にラジカセ! 半地下の駐車場に反響して、大音量に増幅してるとはね。即席ダンス・フロアは、がら空きだった。たった車1台分の中央に十人足らずの男女が固まって、2列に並んで細かく揺れているばかりだ。
「この人達の踊りは、何か伝統的な儀式か何か?」
「違う違う、単にみんな下手なのさ。君のマカレナを見せてあげれば?」
よく言うよトニー、自分を棚に上げて…。しかし、これが〈ガレージ・パーティ〉なのか? 表や通路の人だかりに比べて、かなり気抜けしている。そういうダラケた感じも、僕にとっては調子づいている連中に加わるより気が楽だったけど。
僕はトニーに誘われて飲み物を取りに行った。ラジカセの置かれている台の上に、何種類かのボトルとプラスチックのコップが乗せてある。係の女の子に、トニーはバカルディ&コークを作ってもらった。僕も同じものを頼む。閑散としたフロアより、むしろパーティらしい気分に浸れる。
またエドベンの姿が見えないのでトニーに尋ねると「彼のベイブを捜しているんじゃないのかな」と言った。
ふーん、そうなのか。さっき入り口で紹介された女のコたちは違うの?
「違うさ。奴は面喰いなんだぜ」と、トニー。
「あら、さっきの片方も美人じゃなかった?」
「ヘーイ、ちゃんと見てたのかい? …全然だョ!」
彼は(全然だョ)だけ日本語で言った。でも、デニムのワンピース着てたコ、結構良かった気がしたけど。
エドベンと彼のベイブを捜して表に出ると、先程の女のコ達と立ち話をしていた。が、デニムのワンピースはいなくて、他は男の子だ。どうやら、これから移動するらしい。ベイブに逢えないままパーティはお開きになり、路上駐車していた車が手際よく荷物と人を積み込んで走り去ってゆく。
腕時計を見ると、もうすぐ午前0時になろうとしていた。
エドベンのゴルフは他の2台を引き連れて走り、小さな店の前で買出しを済ませるとホテル地区の一本道へ。開けた窓から潮の匂いが混じりはじめたが、真夜中だから路肩の両脇には何も見えない。
広く砂利になった路肩に降り立つと、夜の海は波音が大きく聞こえて怖い感じがする。目の前には一面の海が拡がっているに違いないが、夜空との区別がつかない。
仲間の車は、新車みたいにピカピカの白いダッヂ・バンと濃色のステーション・ワゴンだ。パーティに来ていたほとんどが大学生だというから、こいつを運転してきた男の子達もそうなのだろう。彼らの車に乗っていたのは、さっきの女の子2人だった。全員足して六人か、なんか地味な場所と人数…。
まぁともかく呑みますか!という感じで、パーティで余ったラム酒とコーラとチップスで乾杯。
「サルー!」
自己紹介をしたものの、ちょっと僕には場の空気と自分の間合いがつかめない。正直、眠いのも手伝って英語で考えるのが億劫だった。
なんとなくパティに似た、小柄で色白のぽっちゃりしたスペイン系のコは、名前を「アレタ」と言った。アレサじゃないらしい。デニムのコは名前が難しくて、何度言われても覚えられなかった。彼女はきれいに焼けた肌をしていて、デビュー当時の中山美穂を思わせる、とてもワイルドな顔立ちをしている。
アレタはお酒を注いだり、細やかな女性という印象を持ったが、デニムのコはどこか取り澄ましたような、鼻っ柱の強そうな感じがした。そうなんだよなぁ、性格美人と見てくれ美人のコンビ…。デニムのコの取っ付き悪そうな態度が気に入らないくせに、僕はやっぱり彼女の顔をまじまじとのぞき込んでみたいのだった。
男の子の名前は二人とも覚えやすかったけれど、そのせいで忘れてしまった。
車のそばで談笑しているそれぞれのグループから離れ、僕は海の近くへ行った。きっとそこには白い砂浜と、青く透きとおった海岸が続いているのだろうに、今は波頭が青白く浮き上がっては消えるのみ。僕は(この海はカリブ海で、キューバとかジャマイカにつながっているんだなぁー)などと取り留めのない事を思いながら、早く帰って寝たいのを我慢していた。
ふと、デニムのコが路肩脇の草むらに独りで入って行った。しばらくして、男の子の片方が同じように暗がりに姿を消した。なんだろう、用足しか…。それとも??
あーっ、ナニ考えてるんだ僕は!
2005年05月27日
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