2005年05月29日
【台湾の7日間('02.12/13〜20)】最終日・2 「通過」
公共汽車が少し先の路肩に停まった。
駆け寄って運転手に紙を見せながら「トゥージエアポート?」と尋ねる。幸いにも機場に行く路線で、英語が話せる運ちゃんだった。ふー、まだ幸運の女神には好かれているようだな。
緊張が解けた勢いで、僕は運ちゃんに我が身の災難を愚痴った。それでも、ここから機場までの料金29元は、しっかり払わされた。さすが豪華な車体だけあって、インカム付きで切符もオンラインか?
2階席に上がってリュックを下ろす。しまった、さっきの車内にパンとビスケットを置き忘れた。踏んだり蹴ったりだが、すぐに戻りの公共汽車をつかまえたのだから気にするまい。機場に着けば、何か食べ物ぐらいは売っているだろう。昨夜のうちに有り金を使い果たしてなくて、本当に良かった。
やがて工業地帯に入り、空も明るい灰色に変わる。四方八方が工場で、機車専用レーンも通勤ラッシュ直前といった様子だ。地図で確かめると、枋坑子の先まで行っていたのだと分かった。機場と東港の、ほぼ中間だ。まったく!
中南の公共汽車には二度と乗るまい(って今また乗ってるんだけど)。
今度は何事もなく機場に到着。降りようとすると、運ちゃんが「出発ゲートはまだだ、そこまで乗せてくから降りたら3階に行きな」と言った。なので、中南の運転手全員がデタラメという訳ではない事を訂正しておく。礼を言って降りる。
エレベーターに乗ると3階が出発ゲートで2階が到着ゲート、1階に臺灣銀行という表示があった。試しに1階まで降りてみたものの、案の定まだ閉まっていたので3階へ。
思ったよりも広々として解放感があり、初日に通った到着ゲートの愛想のなさとは比べようもない。まずは外に出て一服する。
7時なのに、まだ空は明けきっていなかった。雨季には早い筈だし、この雲も昨日みたいに午前中で消えるのだろう。
免税店で土産物をチェック。リュックを持っていると、何かの弾みで売り物を落として壊しそうなので面倒だ。何も考えずに詰め合わせの菓子を買ってしまう。お茶の棚が目に留まり、高山茶とはどの程度のものなのか気になって見てみる。凍頂烏龍茶とかいう、聞いた事のある銘茶よりも値段が高かったので驚いた。
進成賓館のヨーヘーホーさん、改めてありがとう。ローラー。
ノースウェストのチェックインカウンターへ行くと、ここだけ厳重に荷物検査が行われている。エバーやチャイナと違って、アメリカ系だから防テロ対策なのだろう。それは判るが、積み込みの荷物を全部調べているので一向に列が進まない。でも僕は日本人だからなのか、拍子抜けする位すんなり通されてしまった。
まだ2時間前なので、カウンター上には9:15発の10便が掲示されてない。列の脇から手の空いている女性に尋ねると、彼女は「この便は、オーバーブッキングでEGに振り替える可能性がありますがよろしいですか?」と訊かれる。
格安チケットだからってナメやがって。でもEGってエバーグリーンの事か? 友人Nが「エバーが一番」と言ってたのを思い出し、それにラウンドチケットもくれると言う条件なので気持ち良くOKする。
「どちらにしろ8時にお呼びするので、あちらで待っていてください」
彼女はそう言って、ゲート近くを示した。
なかなか落ち着いた気分になれない。とはいえ、ここまで来たら心配したって仕様がなかった。あと1時間あるし、レストランで朝飯でも食べますか。
素食朝粥いいねー、これにしよう。あとアメリカンにグレープフルーツジュースも頼んじゃおう。しかし何でこういう所のねーちゃんて機械的なのかね、デパートの食堂みたい。
しかし、この粥が非常に旨かった!!
「屋台で50元の粥を2杯食べる満腹感より、この粥一膳の満足感を選ぶ」って、食べ物の味に一家言もない僕が言っても説得力ないけど。しかし高くて不味い空港内の店で改心させられるのなら、もう少しだけ食事にお金をかけるべきだったのだ。食費を節約したつもりで、却って何倍もの価値を逸してしまった。
さすがは食の台湾、侮り難し。最後の一膳で思い知らされるとは、そんなの先に思い知らせてくれって。教訓;台湾で食をケチるべからず。
おっと、あといくら残ってたっけ? 素食朝粥100元とアメリカン70元にグレープフルーツジュース80元、10%のサービス税で275元…。ひゃー、ズバリ買いましょうだね! 札は全部なくなった。
ゲート近くの椅子に座り、時間まで読書。ところが、8時を過ぎても一向に声がかからない。しびれを切らして行ってみると、今度は「9時まで待ってくれ」と言われた。よほど忙しいのか、単に使えないオバサンなのか不安になる。でもエバーの可能性が高いような気がして、内心では少しウキウキ。
結果は期待外れで、あたふたと彼女が持ってきたのは10便の搭乗券だった。ちぇっ。 税関を抜けてコンコースを歩いていくと、すごい行列が見えてきた。まさか、と思ったがやはり搭乗前にも手荷物の検査をやっているのだ。あきれて喫煙所まで引き返す。
一服して行列まで行き、端っこの椅子に座って本の続きを読む。もう予定時刻を過ぎようというのに、今頃走ってくる間抜けた客が多くてちっとも空かない。(さてそろそろ行くか)と思っていると、場内アナウンスで僕の名前が連呼された。
「搭乗時刻を過ぎておりますので云々(英語)」
はて? と辺りを見回すと、ノースの女性が駆け寄ってきた。どうやら彼女は、僕が搭乗手続きを済ませていないと勘違いして捜し回っていたらしい。息を切らせながらトランシーバーに何か言って、僕を金属探知のゲートに促した。
うーん、オバサンおばかさんね(回文じゃないよ)。
大きな手荷物を検査官に調べられている乗客を尻目に、僕は探知機を通ってウェストバッグを開けて見せただけで通してもらえた。
成田まで、食事以外はブランケットにくるまって寝て過ごした。そして到着と同時に出口へまっしぐら、一番先に飛行機を降りる。と、またバスが待っていた。乗る前に一服していても良いか尋ねると、係員に「滑走場は全面禁煙なんでね」といなされてしまった。なんだ、だったら最後に降りても良かったな。
日差しのせいか、12月にしては暖かいほうだ。台湾よりも寒いには違いないけど、空気の中に何か馴染み深いものがある。そこに安堵感を感じている自分に、ちょっとした寂しさを覚えた。
またも長々とバス移動。この扱いは、やはり国交絡みなのだろうか。リュックを拾って税関へ。僕の並んだ列だけ、遅々として進まない。見ると検査官が新米らしく、全員の荷物を丁寧に確認している。ま、本来そういう仕事だもんな。大らかな心でリュックをぶちまけてやる。
京成線の特急に乗る。
線路が地上に出ると、列車は高雄郊外を走っていた。
――というのは錯覚で、成田の郊外だった。
もう少し、旅の余韻を感じていよう。
薄皮を剥ぐように、台湾の空気が肌からはがれ落ちてゆく。
(通過−おわり)
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