2005年05月29日

【台湾の7日間('02.12/13〜20)】最終日・1 「遠い朝」


200505292d79eba4.jpg ケータイのアラームと一緒に、雨音が聞こえてきた。
 枕元の目覚ましは6AM、まだ暗い窓を開けると町はびしょ濡れで肌寒い。客運までの辛抱とはいえ、気分が重くなる。
着替えて腕時計を見ると、なんだまだ5時過ぎじゃん! そうだ、腕時計以外は日本時間のままだったのだ。でも二度寝して出遅れるより、6時の始発に乗っちゃおう。
 1階に下りると、ロビーのフロント内で女のコが二人丸くなっていた。起こさないように、カウンターにそっとキーを置いて出ると雨は止んでいた。ビルから落ちる水滴が撥ねて顔にかかる。
 水たまりを避けながら、暗い町を急ぎ足で火車站前に向かう。站前の客運は、いくら始発前とはいえ明かりもついてないし誰もいない。よく見ると、往小港は8AM〜と書かれていて青ざめる。帰国便は9AMのフライトなのに、ハバナの時みたく乗り損ねたらエライ事だ!
 ガイドブックの「始発バスは6:15AM」を信じ込んで、昨日の乗り場確認で時間までチェックしておかなかった自分に腹が立った。しかし他の路線なら、早朝便を運行している可能性がある。すぐ引き返して、途中にあった別会社の客運で訊いてみる事にしよう。

 大きな2階建ての車体が停まっていて、制服を着た女性が立っている。「往高雄国際機場?」と書いた紙を見せたが、これは違うらしい。彼女が隣の、別の客運の男性を呼んでくれた。彼が大きくうなずいて待ち合い所を示すので、中に入って上車券の窓口へ。
 27元? 来る時は12元だったんだけど、やはり聞き間違いではなかった。だからって止めとく訳にもいかない、ぼったくられても高々15元なんて50円かそこらだ。
 誰もいない待ち合い所は明るく、革張りの椅子が並んでいる。間もなく、高校球児といった感じの若者達が入って来た。会話の中から「ウーロン」と聞こえたので、ひょっとしたら東港近郊の烏龍という町まで遠征試合に行くのかもしれない。それぞれ大きなボストンバッグを下げている。
 客運の男性に声を掛けられ、球児らと一緒に2階建の大型公共汽車に乗り込んだ。後ろの乗り口から天井の低い個室になっていて、正面の壁にはTVがはめ込まれている。彼らはそこに荷物を放ると、左の階段から2階席へと上がっていった。僕もそれに倣い、客運の彼に礼を言って後に続く。
 シートは本革張りで、3列おきに天井からTVが下がっている豪華仕様。乗り心地は良いのだが、どうも居心地が悪い。こういうのは不相応な気がして、落ち着いていられない。
 運転手と客運の男性が、何か立ち話をしているのが窓から見えた。僕を高雄空港で降ろすよう、引き継ぎをしてくれている様子だった。時計を見ると5時半、ちょっと早すぎるけれど無事に帰途に就いたので一安心。
 発車すると同時に、TVで「TAXI2」という映画が始まり、球児達は口々に大声を出した。大した事ではないけれど、なぜか言動がいちいち気に障る。体育会系の、この無粋さはどうも苦手だ。
 ものの数分して、最初の角を曲がった位の場所で停車した。停留所ではなく、ここも待ち合い所のある客運だ。窓から見ていると、乗客の他に別の運転手が乗り込んで来た。乗務員が交替する場所のようだ。
 映画の中では、黄色の三菱ランサーが飛び回っていた。台湾の汽車(タクシー)と同じだけど、まさかこの映画の影響ではないだろうな。日本で黄色いランサーを見かける度、きっと僕は台湾を思い出すだろう。

 高雄市街を抜けた公共汽車は、ノンストップで走り続けている。
 ガイドブックには「渋滞しなければ、高雄火車站前〜国際機場間の所要時間は約20分」と書いてあった。このスピードならもう空港に着いても良さそうな時間だ、もう6時を過ぎようとしている。
 垂れ込めた雨雲のせいで、空は一向に明るくならない。
 僕はもう映画どころではなく、前方に標識が見えるたびに目を凝らしていた。地平線に太陽が顔を出し、少しだけ見通しが利くようになった。気が付くと周囲は平坦になり、これは見渡す限りの畑ではないかという悪い想像が体を強ばらせる。
 席を立ち、前方の階段を下りて運転手に「エアポート?」と話しかけた。彼は英語が話せないからか、顔をしかめて何か言っている。運転の妨げになっては申し訳ないが、僕はまた例の中国語で書いた紙を見せた。 段々と彼の言っている事が不安になってきたので、思い切って僕は地図を出して機場を指さす。うんざりしたように運転手が指したのは、すでに林園の近くだった。乗り越しにも程がある。
「オーマイガッ!!」
 思わずそう叫んでいた。通じないのになぜか英語で散々ののしり、しまいには日本語で怒鳴りまくった(ガイドブックによれば、台湾では冗談でも「野郎」などと言うのは良くないらしいのだが)。
 さすがに運ちゃんも困った顔をしていたが、そうしている間にも林園に一直線だ。彼の身振りでは「ここで降ろしてやるから反対車線で空港に戻れ」と言っているようだった。気にいらねえ、最後まで日本語で毒づいてバスを降りた。

 周囲に家も無さそうな、薄暗い幹線道路に取り残された。
 長距離トラックがビュービュー走り去るのを待って、足元もよく見えない、太い車道を横断する。次々と猛スピードで通過する黒い影。ヘッドライトの逆光もあって、バスとトラックの見分けすら付かなかった。
 もうすぐ6時半になるが、まだ慌てる必要はないと自分に言い聞かせる。
 しかし、また雨がパラつき始めた。
 一服ついてる場合じゃなさそうだな・・・。


(最終日・遠い朝−おわり)
posted by tomsec at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 台湾の7日間('02.12) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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