2005年05月29日

【台湾の7日間('02.12/13〜20)】7日目・2 「すべては流れ行く」


200505293757cfe5.jpg ガイドブックに載っていた百貨店は開店休業状態。照明は暗いしホコリが積もってるから、休みじゃなくて潰れてるのかも。じゃあ買い物やめて全部日本円に両替しちゃうか?・・・それもつまらない。
 愛河沿いをマードラゴン(頭が龍で尾が魚なので勝手に命名、高雄銀行のプレート付き)像まで行って、民生二路を市街の中心に向かって歩く。高いヤシの並木がホノルルみたいなこの通りには、高級そうな高層ビルが多い。
 工事中の摩天楼、これがまた三匹の子豚式ヤワな建て方してやがる。木の棒を足場に組んで、お寺の修繕じゃあるまいし。スカスカの骨組みにピカピカの外装を貼り付けて、外目は立派でも芝居のセットみたいなハリボテ構造に見えるが。これで許されるの?
 それとも、僕には見えないだけで耐震&免震設計なのだろうか。とても信じられない。

 また歩き疲れてきたところで、足ツボマッサージの診療所みたいな家を見つけた。ぼーっとしてたので、通り過ぎてから気付いて引き返す。
 台湾といえば足ツボマッサージだとか、そういえばガイドブックにも書いてあった。試しに、ここで旅の疲れを癒すとするか。この地味〜な平屋がまたいい感じ。確か、30分で500元だったと思うが忘れた。表のガラス戸に大書きしてあるとおりだったから、ぼられた訳ではない。
 先生は、コウさんというオジチャン。細身の、笑わないけど茶目っ気がありそうな若い爺さんだ。なのに、指先で軽く押されただけで悶絶!
 とにかく痛い、すごく。(こんな痛みもあったのね!)って感じで、あらゆる痛覚の百貨店。効いてるとか効いてないとかより、もう痛みしか分からない。革張りのソファに埋もれて必死に声を殺す僕を、コウ先生は軽やかにヒーヒー言わせるのだった。
 コウさんの身振りから、僕は「頭と胃と腰が弱っている」らしい。言葉以上に雄弁な指が、各部位につながっているツボで教えてくれる。眼球が飛び出そうな、そこだけは泣いて謝るからっていうポイントがあるのだ。これだけ痛い目に遭わされて、よく殺意や憎悪が芽生えなかったものだ。コウ先生に教育されたら、世界一のマゾにだってなれそうな気がする。


「大丈夫かい?」と僕の手を握ってくれた、ソンさんという大柄なオジサンがいた。
 先生の知り合いみたいで、上手な日本語で通訳してくれる。
「コウさんは上手な人だから、明日寝て起きたら悪いところスッキリだよ」と言って大声で笑った。それから「私は明日、横浜に行きます」とか言いながら、どさくさに僕のケータイ番号を聞き出して帰っていった。
 ソンさんがくれた名刺には“台湾強世界云々…発起人”と肩書があり、つまり何を職業にしている人か分からないのに「分かるでしょ?」と言われてるような気がしてくる。
 番号を教えなきゃいいのに、というのは後でしか思いつけない事だ。苦痛にもがいている時に質問されたら、特に堅い覚悟でもしてない限り何も考えられなくなって答えてしまうものなのですよ。
 あれだ、拷問で口を割るのは痛みで頭が真っ白になるからだ。恐怖や辛さじゃなくて、体はそのような仕組みになっているのだと思った。
 ソンさんが、もしもそこまで計算ずくで聞き出していたとしたら…? ああ嫌だ、ゾッとしてくる。足ツボ初体験は、思わぬ所でケチが付いてしまった。

 気を取り直してまたガイドブックを開き、今度は“若人の集う歌声喫茶”やらを探して歩く。が、すでに潰れたようだ。
 裏の路地を入るとタトゥーショップとか流行りもの好きが集まりそうな店が固まっていて、この一角だけ人がやけに歩いている。渋谷というより三軒茶屋のクラブにいそうな(って知らないけど)若者ばっかり。間合いが読めないので早々に立ち去る。
 下町のような裏道から、別の大通りに抜けた。反対側に「東京漫画…云々」という店が、ぽつんと建っている。店名のとおり、ここは日本のアニメとコミック中心の本やCDを扱っていた。驚いた事に、ゲーム攻略本までが中国語版だ。
 (もしや)と思って見ていたら、気になっていたアニメ(彼氏彼女の事情)のCDを見つけてしまった。90元という破格値につられて買ってしまう。
 しかし台湾の出国検査は厳しく、コピー品は没収されてしまうとガイドブックに書かれてあった。店員の話はどうも自信なさそうで危しいものだが、いざとなっても90元なら諦めもつく。
 店を出ると、入れ替わりに来た常連客が後から追ってきた。その男性は日本語が達者で、わざわざ「CDの裏面内周寄りにIFPIと刻印されていたら、万が一コピー品であっても没収される事はない」と教えに来たのだ。どうみても正規輸入品ではないけれど、その場で開封すると確かに刻印はあった。
 外見はオタク系に見える人のほうが、やっぱり英語とか日本語とか上手なのだ。
 その彼に「日本語、上手じゃない」と突っ込むと「いえいえ…」だって。なかなかやるな。ていうか、そんな妙にこなれた日本語どこで覚えたんだ?

 今日は、自分にしては珍しく活発に動いている気がする。観光目当ての旅行者だって、こんな無計画に歩き回ったりはしないのではないかな。台湾最後の一日を惜しむ・・・というより、高雄市街を知り尽くそうという無謀な勢いかもしれない。案外(そんな自分もまんざら悪くないな)とも思った。
 旅行しても、僕は動き回るのが好きではない。旅先で、何もしないのが好きなのだ。
 台湾に来たのだって、理想としては「海の近くの空き地に寝転んで無為に過ごす」というような日々を送る筈だった。しかし相応しい場所は見つからず、思い返せば慌ただしく転々と移動を繰り返していただけで最終日が迫っている。
 本当は、理想の場所を捜すつもりなんてなかったのに。くたびれちゃって、ぼーっとしたかっただけなのに。
 精力的に歩き続けるのは、日常を離れても思いどおりにならないという状況に対する、一種の開き直りのように思えた。何か他にやりたい事が思いつかないにしても、明日の朝までじっとしているのは嫌なのだ。
 こんなふうに、旅が終わろうとしているなんて。


(すべては流れ行く−おわり)

posted by tomsec at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 台湾の7日間('02.12) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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