2005年05月29日
【台湾の7日間('02.12/13〜20)】5日目・3 「東港から萬丹へ」
3:30PM。フロントにキーを返し、ついでに情報収集。
今夜の候補地(烏龍、新園)について訊くと、オバサンが言うには「宿なんてない」らしい。いくら小さな町だからって、1軒くらいありそうなものだけど。
潮州か萬丹クラスの大きな町に行けばあった筈だ、と言う。ならば、あえて詳細地図のない萬丹に決定。良さそうな響きじゃない? マンタン。
って、こういう発想は佳冬の時と変わってなかったりして。行き当たりばったりも程々にしないと。
往萬丹の客運を尋ねると、地図を書いてくれた。すげーアバウトな、でも輔英病院のすぐ先だから一本道だし案外近い。オジサンもオバサンも、とっつき悪いのは最初のうちだけ。みんな親切だ。
オバサンに手を振って、元気良く出発。彼女も笑って手を振り返した。
客運の屋根の下、次々と来ては去る公共汽車の行き先表示に目を凝らす。
そんな僕を見て心配になったのか、切符売り場の女のコがブースから出てきて教えてくれた。そればかりか、わざわざ運ちゃんにも話を通してくれている様子。
世話好きなのかな、というよりも間抜けな子供になった気分だ。ま、可愛がって呉れ給え。
中年の運ちゃん達は、みんなビンロウを噛んでいる。これかあ、友人Nが言ってた「台湾の噛みタバコ」ってのは。
どの町でもビンロウを売る小屋はやたら目に付くのに、実用してる人を見たのは初めてだった。林邊でも町外れの路面が汚れていたけど、僕がいるベンチの周辺も赤黒くまだらに染まっている。
ここで、ビンロウについて簡単に説明しましょう。
辞書を引いてみると、「びんろう‐じ[檳榔子]やし科の常緑高木。幹は直立し4−10b。幹の先にはね状の葉をつける。びんろうじゅ。」とあります。
本来、植物の名前なんですね。それから僕の記憶違いでなければ、ミクロネシアだかポリネシアの島々では赤い染料として用いられている筈です。
台湾で知られているビンロウ(発音的にはビンランか)は、この植物の実か何かを噛んでいるようです。その樹液のような汁が、唾液と反応して口内が真っ赤に変色するのです。
友人Nの話によると、非常に不味い! だけど、ちょっとクセになるのも分かる気がするそうです。
昔は嗜好品として定着していたのが、最近では若い人を中心に敬遠される傾向にあるようです。そういえばタバコも、台湾の若者はほとんど吸っていないのだとか。つまり(オシャレじゃない)ってコトでしょうか。ま、赤黒い唾を辺り構わず吐き出す訳ですからね。
しかしトラックの運転手などには、眠気覚ましの作用もあって今も売れているという話。
ちなみに台湾では、若い女性の檳榔売りが社会問題化しているそうです。水着や下着姿といった大胆な姿で、街道筋に立って客引きするとか過激なサービスが云々。友人Nの話によると、日本のTVや新聞でも取り上げられた事があったとか。
友人Nが台湾に行った時は、それこそ目のやり場に困るような檳榔売りの女のコを多く見たというのです。あいにく僕が見た檳榔屋の売り子は、服を着たオバサンか強面のオッサンぐらいしかいませんでしたが。
彼に依頼された台湾土産というのは、まさにその檳榔+お色気娘のセクシーショットでありました。
さて、萬丹を経由する公共汽車は3:45PMに出発。東港−萬丹の値段は38元。
運転席の脇に小さなポリバケツを置いて、吐き出した檳榔汁を溜めている。これもマナーか。
案の定、車内は凍えるほどの強冷房。南国の定めか? ハワイでもカンクンでも同様だったので、こんな事だろうと僕はトレーナーに長袖シャツで万全の備え。
しかし台湾人の温度の感じ方、これは僕にはよく分からない。この気温で秋冬物を着てたり、かと思えば強冷房だし。
地図を拡げて、公共汽車の移動状況を追っていく。あっという間に烏龍を過ぎ、30分で早くも香社を通過した。地図で見る印象より距離が近いようだ。
片側4車線の太いバイパス道路になり、街道沿いの檳榔小屋には、水着じゃないが確かに色女が。中にはタトゥー入れまくりのスゴ女も。しかしせめて、友人Nが見せてくれた新聞の切り抜きぐらいは可愛く脱いでくれないと。
やっぱ冬場じゃ無理か。
約40分で萬丹に着いた。
バス停前が警察署で、まさか小琉球のような親切を期待した訳でもないが実直な方で。頼み込んで地図を書かせて、向かった先は町外れの汽車旅館。つまり文字通りのモーテル。
建物は低く、歩道は狭い。豆腐屋さんか何かの店先に、主婦が行列を作って僕を見ている。家々の外壁は排気ガスのせいか薄汚れていて、町全体が陰鬱なトーンに見える。
この町は、太い街道がいくつも交差する土地だった。車も多いが、なんといっても排ガスの濃さは最高。
汽車旅館が見えてきた。その前に横たわる、大河のような排ガス街道。周辺は畑だったが、排ガスに肥の臭さが混じり合って大変な空気になっている。
部屋を見るまでもない、足取りも重く引き返す。東港で回復した分、ゴッソリへこんできた。喉は痛くなるし目はショボショボしてくるし、明らかに選択を誤った。
陽が落ちる前に、ここを離れなくては。
とてもじゃないが、用もなく訪ねる町ではなかった。“名もない町”なんて、本当に何もないのだと身に沁みる。
片田舎の小さい町なんて言葉に、幹線道路と寂れた食堂とガスステーション以外を期待した僕はどうかしてたのだ。
自分の甘い幻想がアホらしくなる。
(東港から萬丹へ−おわり)
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