2005年05月29日
【台湾の7日間('02.12/13〜20)】5日目・2 「小回復」
「華安旅社」のオバサンは、訝しげな目で僕を見ながら「3小時間300元」と書いて寄越した。もう何でもいいと思いながらも、後について2階の室内を見せてもらう。
最悪、廊下に長椅子でも構わなかった。熱いシャワーとベッドがあれば文句なし、バスタブがあれば最高だ。そして、案内された部屋には望んだすべてがあった。
即決で金を払って、キーを受け取る。汗でベタついたリュックを床に落として、それだけで僕は天国にいるような気分になった。
部屋そのものも、全然まともだ。昔の映画で観たような、マンハッタンの安アパートって雰囲気。大通りに面しているにしては、喧噪も気になるほどではない。一応は床もカーペット敷き、空調も魔法瓶もテレビもある。このまま泊まるのも悪くない、むしろそれが良いかもしれない。
ベッドに引っ繰り返って深呼吸、ちょっと気分がスッキリしてきた。今ならもう少し動ける、その間に両替を済ませて来よう。
階下で「臺灣(台湾)銀行?」と尋ねたら、なんと目と鼻の先だった。外貨を扱える銀行は限られているので、すぐ近くにあるなんてラッキーだ。
文字通り肩の荷を降ろし、精神的にも身軽になった。サングラス越しに見る昼下がりの街路、上等だ。
銀行の2階、海外為替の机には誰もいなかった。離れたデスクのおじさんと目が合って、英語で用件を伝えると「貴方は日本人ですか、なのに英語が上手だねー」というような事を言われた。
あれ、そういえば自分も林邊のバイク屋の女性に同じ台詞を言ったっけなぁ。思い出し笑いをしていると、担当の女性がやって来た。若い彼女も話に加わって、雑談しながら両替してもらう。
なんか不思議。ビジネスとか接客とかじゃない、フレンドリーでくつろいだ感じだけど銀行。
僕が「台湾は初めてだし、一人旅も初めてだ」と言うと、彼女の瞳からラブラブ光線発射! というのはウソかもしれないな。どちらかと言えば、遠くを夢見ている眼差しだった。
両替できたし、まずはひと安心。レート2,797で、1万1千円を3,077元に。
銀行の斜向かいに、大通りを挟んで本屋を見つけた。これは好都合だ、この町を探索するのには現地のガイドブックが役に立つ。中国語は分からなくても、ある程度は漢字を見て見当が付くだろう。
東港は、日本から持参したガイドブックには載っていない。観光地ではないから当然だろうけど、ここは町と呼ぶよりも都会だった。ビルの街並みは高雄より整然とした印象で、時間の速さもキビキビと流れていた。
本屋には、東港のガイドブックなんてなかった。考えてみれば道理で、観光地でもないのに東港で東港のガイドブックを売るはずもないのだ。
仕方ないな、足で情報を捜すしかない。林邊方向にダラダラ歩いていくと、輔英病院の大きな建物の先はビルもまばらだった。
そこから裏道を引き返し、市場とアメ横を合体させたような路地へと入り込む。どうやら僕は場違いなようで、やけにジロジロ見られた。昼時を過ぎて生鮮品は店じまいを始め、屋台も火を落としてしまった様子だ。
路地を抜けると、さっきの本屋だった。やれやれ。
本屋の主人に筆談で尋ねると「地図を買いなさい」という。店主は目立たない一角にある棚に行き、屏東(Pin-tong?)縣(県)全体の一枚図を出して見せた。
シー。仰せのとおり、セニョール。
偶然だったが、中国語のYESはスペイン語と同じらしく(正確には違うだろうけど)通じてしまった。
小洒落た茶店のテラスに陣取り、一人作戦会議。コーヒーらしいコーヒーを飲んだのは、ひょっとして台湾で初めてか? やはり豆から落としたコーヒーは美味い、でも豆の質と水が合ってないようだ。
屏東縣は、高雄より南のほぼ全域を占めていた。僕が移動した佳冬も林邊も、まるっきり屏東縣内の小さな範囲だったのだ。気分だけは(グレートジャーニー!)だったんだけどな。
旅も半ばを過ぎ、そろそろ折り返す心積もりで動くとなると、これから先は高雄に向かう方向に宿を決めて行くのが良かろう。
公共汽車で北上すれば、半日あれば振り出しに戻れる。だけどそれではつまらない。もう一度、火車の旅行気分を味わいたかった。
となれば、火車站のある町に向かうとしよう。
全図の裏には、いくつかの都市の拡大図が載っていた。それを眺めていて、今夜は烏龍か新園あたりに泊まろうと思い立った。さしたる理由はない、ただ屏東火車站への街道筋にある小さな町だから。
そうと決めたら残りの休憩時間で体力回復すべし、道すがらKFCを見つけて買い出しに立ち寄る。ついに、この手の店を利用してしまった。ともかく今は旅のムードよりも、手堅い食事が優先だ。
訳判らないメニューを指さして、何か違うような気持ちで料理を食べるのも飽きる。
華安旅社。フロントに「チェックアウト時間の20分前に起こして」と言伝て、熱い風呂を沸かしてじっくり浸る。体温が上がり、いくらか頭痛もおさまってきた。テイクアウトのチキン&バーガーをコーラ(これも台湾初だ)で流し込み、ベッドに倒れ込む。
窓から差し込むカーテン越しの薄明かり、大通りの喧噪が遠のいてゆく。
吸い込まれるように仮眠、そして小回復。
元気が出てきてやっと、自分がスタミナ切れ寸前だった事が実感できた。追い立てられるような慌ただしい旅が苦手なくせに、知らぬ間に自分からそのように動き回っていたのだった。
残りの日程は、腰を据えて過ごそう。
僕が台湾に来る前に思い描いていたような、のどかな場所が見つかる事を願いつつ。
(小回復−おわり)
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