2005年05月30日

【台湾の7日間('02.12/13〜20)】2日目・3 「佳冬」


200505309bd83369.jpg 寝ぼけまなこで車窓を眺めると、すっかり民家は消えて緑一色だ。
 ヤシの木畑? そんな整然とした感じに生え揃っている、背の高いヤシの木が規則正しく流れてゆく。
 いつの間にか思いっきり南国に変わった風景を、ぼんやりと眺めているうちに停車した。他人事のように乗り過ごしそうになり、一気に目が覚めて飛び降りる。
 ここが、佳冬(Joh-tong?)か。
 特急(復興号)に乗り換えたせいだろうか、想像していたよりも近かった気がする。ホームの両側にヤシの木という、いかにも南国の片田舎にやって来た。それにしても、だ。
 くっさーい! ツーンと鼻をつく肥溜め臭。鼻が曲がるとはこの事だ、頭が重く感じる。
 慣れてくると、わずかに潮の匂いが混じっているのが分かった。海が近いのだろう。風は凪いでいて、熱帯の濃ゆい空気が立ち込めている。

 佳冬は、ガイドブックには載っていない。無人の改札を出ると、本当に何もなかった。
 車を数台停められるだけの広場、あとは道路と緑だけ。店とか宿はおろか、民家もなくて唖然とする。
 さーて、困ったぞ。改札の脇で話し込んでいるオッサンに訊くしかないか、うさん臭い顔付きにしか見えないんだけど。
 この人達に限らず、台湾のオッサンて人相が怪しすぎ。実際は表裏なく親切なんだけど、つい目が合うだけで身構えずにはいられない。ともかく表向き自然体を心掛けて「ニイハオ」と挨拶する。
 オッサン達も訝しげな顔付きで僕を見ていたが、たとえ(妙な奴)と思っていても挨拶を返してくれるのは台湾人の良い所だ。筆談で「どこに宿はありますか」と尋ねる。彼らは顔を見合わせて、口々に「メイヨー」と答えた。没有ね、無いって意味だ。
 がーん! 無いのかー? 

 でも、少し先に行けば一軒あるという。オッサン同士、歩ける距離だとか無理だとか言い合いを始める。とにかく「車で送ってやる」という話になった。元々は好意だけの話が、仲間内で欲が出きたのが顔付きで分かった。「150元だ」と吹っかけられ、値切ったが120元で折れた。
 やな気分だ。金を要求されたからではなく、あの露骨な表情。

 色彩に乏しい一本道を飛ばす。歩けなくもない距離だ、と思う。
 車の持ち主も気が引けたのか、100元だけ受け取ると来た道を走り去った。
 川沿いの、寂れた中華料理店のような外観の一軒家。入ってみると、暗くて人の気配もない。
 ちょっとー、そりゃないでしょ?! の心境。
 大声で呼ぶが返事はなく、掃除のオバチャン見つけて筆談を求めるが相手にされない。執拗に食い下がると「宿の主人は不在でもうじき帰ってくる」というような事を書いて追い払われた。
 表で呆然と立ちつくしていると、宿の裏手でエンジン音が聞こえた。回り込むと主人らしき人がいて、筆談で掛け合ってみたが「泊まりは800元、嫌なら他に行けば」とつれない返事。
 新源の倍も払う位なら他をあたるさ、隣町の林邊(Lin-pin)まで行けば1軒あるという。火車站ひとつ分、引き返す事になるのか。
 僕が途方に暮れているのを見かねたか、主人が僕を機車(原チャリ)に乗せて林邊火車站の手前まで送るという。そこまでしてもらうのも申し訳ないので、町の入り口まで厚意に甘える事に。
 ヨタヨタ走る機車で橋を渡る。川風に吹かれて気持ちがいいけど、2ケツでノーヘルはスリリング。ちょっと前までは、日本だってノーヘル当たり前だったのに。この辺は規制がゆるいらしい、高雄ではみんな被ってた。
 川幅は広かったが、渡った所が林邊の入り口だった。ここからは自分で捜す事にして、最後まで愛想のない主人に手を振って見送る。謝謝。

 佳冬から高雄寄りに少し戻った事になる。ここは栄えている町のようだ、閑散とした佳冬に比べれば。
 通りを挟む家々に商店が目に付くようになり、人の姿もちらほら。何をするでもなく、珍しそうに旅行者を見つめている。だからって見つめ返すのも何だし、落ち着かない気分。
 町並みは、重苦しい色のビルの外壁が(レイドバックしたハバナ市街)という印象。埃っぽい空気感はカンクン郊外、ソウル裏通りの乾いた雰囲気にも似ているような。って、知ってる外国全部じゃん。
 小学校の先で右に別れる道があり、モノクロからカラー画面になったような活気に引かれて寄り道。
 派手やかな寺院の周囲に露店が出て、下町の縁日っぽくて妙に懐かしい感じ。子供時代に満ちていた、夕飯時の商店街の揚げ物の匂い。なんかホッとした。
 この一角は茶店も多い。公園にあるミルクスタンドとか焼きそば屋みたい、だけど飲み物を出す茶店と食べ物を出す屋台は別なのだ。とりあえず茶店に入るとするか。

 茶店は表にパラソルとガラスケース、ケース下にメニューがずらりと書き出してある。すごい種類だが、よく見るとコーヒー紅茶青茶緑茶で10種程度。それぞれ冷/熱とタピオカの有無などで倍増しているに過ぎない。
 温コーヒー牛乳を頼み、ついでにトイレを借りて一息。出店の後ろに屋内のテーブル席がある。天井に、ゆるゆると回るルーフファン。
 売り子の女性に安宿を尋ねる。彼女は英語が苦手だという顔をして、わざわざ近所から英語の達者なオジサンを呼んできてくれた。同時に数人がやって来て、何が起こったのかと興味津々にのぞき込んでいる。
「君は、何が知りたいのかね?」とオジサン。
 一番安い宿を教えてもらって礼を言う。と、この店の兄さんが機車で送ってくれる事になった。すぐ近くらしいので断ったが、何度も勧めるので乗せてもらった。
 すぐ近くだったのに。
 うーん、タイシェーシェーニンレー。つまり、とってもシェーシェー。

(佳冬・おわり)
posted by tomsec at 00:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 台湾の7日間('02.12) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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