2005年05月30日

【台湾の7日間('02.12/13〜20)】2日目・2 「スイッチオン」


20050530e9c1c729.jpg 頭が回らなくなっているのか、それさえも分からなかった。
 どうにかしなきゃ、でも何を? 高雄火車站(駅)まで行ってはみたものの、意味もなく右往左往するばかり。やはり小琉球(hsiao-liu-chiu)にしようか、友人Nが勧めていた小さな島だ。
 小琉球に行くとなると、フェリーの発着する林園(Lin-yen?)まで汽車(タクシー)か公共汽車(バス)で行かなければならなかった。しかし今は、そのどちらに乗る気も起きない。
 とすれば、移動は火車(鉄道)に限られる。そこから先は考えが浮かばなかった。

 高雄站の構内は天井が高く、多くの人が行き交っている。人の流れを避けて、表で一服する。
 すでに日は高く、いつの間にか汗ばむほどの陽気になっていた。照り返しが眩しくて、目が痛くなる。
 ロータリー前の眺めは、日本と何も変わるところがない。まるで自分が、吉祥寺の駅前で待ち合わせでもしてるかのような錯覚を覚えた。
 ケータイで歩きながら話す若者、女のコのファッション。軒先で演奏するグループもいる。その音色だけが唯一、異国にいる現実を感じさせてくれていた。
 何もかも投げ出したくなる。
 最大の不安は、所持金が少ない事だった。それにカードも持ってない、だけど承知で来たくせに。
 なぜ今になって急にビビッてる? あと一週間は日本に帰れない、それまでのサバイバルだと思えば簡単な事だった。手持ちの金額から一日の使用限度を逆算すれば、あとは範囲内でやり繰りするだけだ。
 宿代その他で1000元を目安にしておいて、多少オーバーしてもカバー出来るくらいの余裕はある筈。
(もう大丈夫だ)と自分に言い聞かせる。
 この時の感じは、今も覚えている。新しい水に適応するスイッチが入ったような感覚だった。

 佳冬(Joh-tong?)行きの切符を買った。62元。
 高雄から南へ、なんだか良さそうな名前だし。券売機の上に掲示された路線図を見て即決。最初っから無計画な旅なんだから、決めるのに必要なのは勢いとかヒラメキだ。
「站の建物はなかなか立派だ」と聞いていたが、改装するのか工事中だった。そのせいか、ゆるい感じの改札が二つだけ。柵の向こういる駅員が、乗客の切符を見て「はい、何々行きは何番線」と言っている(気がする)。
 連絡通路を歩いていて、困った事に気が付いた。「佳冬行きは何番線」とかの表示が一切ないのだ。
 どのホームに降りるのか迷って、通りがかりのオバチャンに尋ねた。ところが彼女も分からないらしく、何人かに訊いて首を傾げている。案外、みんな自分の行き先しか知らないみたいだ。
 なんとかホームに降りたは良いが、今度は左右どちらの車両が佳冬行きかで悩む羽目に。周囲の人に言われるがまま鈍行に乗ると、弁当を開ける寸前「やっぱり違った早く降りろ」と言われ慌てて下車。
 案内表示がないからって、そんなに遠くの田舎町なのかよ?
ホームと車内の乗客とで意見が合わないらしく、決着がつかないのを見かねてまた別の人が話に加わってくる。どうしてこうなる? と思いながら申し訳なくもあり、心中複雑な肩身の狭さ。
 結局「急行のほうだ」とまとまり、もうどこ行きでもいいから乗ってしまえ〜と出発。乗降口に扉がなくて、そのまんま「世界の車窓から」の世界。でもちょっと、これっておっかないね。

 込み合う車内、左右2人掛けの座席は空きが見つからず。なかなか落ち着いて弁当を広げられない。
 空席を見つけてやっと一息。やはり列車は(旅をしている)という実感が湧いてくる。
 相席になった青年は少しだけ英語を話せたが、会話は筆談中心で。彼は高雄の専門学校に通っていて、自宅のある屏東(Pin-tong?)に帰るところだった。
 という事は、方向は間違っていない。「この火車は、佳冬に行きますか」と訊くと、彼はカバンから時刻表を出して「屏東で乗り換えるのが良い」と教えてくれた。
 屏東に着いた。地下連絡通路を通り、改札に面したホームで握手して別れた。シェーシェー(謝謝)!
 この町は、ガイドブックによると「山間部への足掛かりで、特に見るものはない」と書かれている。高雄以南では工業を中心として栄えている町、とはいっても高雄に比べればのどかな雰囲気だ。
 佳冬まで直通の便を待つ。乗降客が一段落するとホームは閑散として、単線ローカル駅の風情が漂う。
 ベンチでひなたぼっこしながら一服。
 そういえば高雄機場以来、初めてタバコを吸う人を見た。やっぱりオッサンだったが、若い人はみんな本当に吸わないのか?
 素っ気ないアナウンスに続いて列車が着いた。先頭車両はさっきと同じくディーゼルだ。ガラガラの車内、空調も程よく効いている。
 屏東出発、と同時に心地よい眠りに落ちる。ああ幸せな昼下がり、と思ったら車掌に起こさた。乗車券を拝見、ではなく追加料金を請求され22元を払う。シートも快適だし、まぁ善しとしよう。
 そうか、あの青年は気を利かせてくれたのか―ぐーぐー…。

(スイッチオン・おわり)
posted by tomsec at 00:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 台湾の7日間('02.12) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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