2005年05月30日
【台湾の7日間('02.12/13〜20)】2日目・1 「オバチャンパワー」
絵に描いたような、さわやかな休日の朝だ。
カーテンのレース越しに差し込む午前の光、初夏の匂いが部屋に充ちている。
友人Nが春先に来た時には真夏の暑さで、夜も寝苦しいほどだと言っていた。しかし思ったとおり、今の時期は過ごしやすいようだ。
ただ少し冷え込んだのか、夏掛けだけでは体が冷えてしまった。掛け布団がこれ一枚しかなかったのは、今まで苦情が出ないからだろう。僕が寒さに弱いだけなのだ、きっと。
夏場の僕は、子供みたいに寝冷えしやすい。そんな事は冬の間に忘れていたし、寝間着はTシャツと短パンで事足りると考えていた。頭は重いし体はだるい、でも体が温まれば治る。
経験上、暑い地域は(外国に限らず)乗り物や店内のクーラーが過剰に効いているのは知っていた。寒さ対策は、長袖のシャツとトレーナーでバッチリだ。だけど、夜が冷えるとは思いもしなかったな。
大きなリュックの中は、半分以上が成田で脱いだ上着など防寒具だ。荷物はとにかく少なく、軽くしてきた。
Tシャツと下着類は3セットでローテーションさせるので(昼間−寝間着−翌日分)、昨日の分は夜のうちに手洗い済みだ。壁に掛けておいたら、案の定すっかり乾いて扇風機の風に揺れている。
さぁて出掛けるか! と勢いよく立ち上がりかけて、また和む。TVにジャッキー・チェンが出てきたので、つい観てしまう。これは「蛇拳」かな? 整形前の成龍、あの頃は面白かったなぁ。
ケーブルテレビが普及してるのだろう、チャンネル数は150くらいある。映らないチャンネルも多いが、ハリウッド香港映画それぞれの専門チャンネルや日本のドラマばかり(古いけど)流してるのもあって飽きない。
漢字の字幕を追っているうち、段々ウトウトしてくる。梅雨の合間のさわやかな夏、まどろむ時のシアワセといったら…! って、台湾で何してんだか。まずは朝ごはんだ。
ドブ川を挟んだ向かい側に、友人Nが朝食にお勧めしてた店がある。話では「ハンバーガーから軽食まで何でもある」という事だったけれど、そんな垢抜けた店は見当たらない。該当する場所には、質素で庶民的な食堂しかなかった。しかし、看板には確かにハンバーガーの絵が。
店の間口は広く、カウンター越しの調理場ではオバチャン3人が忙しそうに立ち働いている。テーブル客は男が一人、後は次々とやって来る持ち帰りの客だ。きっと仕事先に弁当を買って行くのだろう、みんな機車(原チャリ)に乗ってくる。
調理場の壁には、“〜麺”とか“〜飯”と書かれた短冊の品書きが並んでいる。なんとなく分かりそうな漢字熟語で、その中にハンバーガーがあるとは思えなかった。
いつまでもボサッと突っ立っている僕に、ぶっきらぼうな言葉を投げてくる。焦れったくて語気が荒くなってるのか、中国語のアクセントが強いだけなのか。当然、英語では通じない。
台湾の朝は粥、という事で。50元、レートからすると150円前後か。微妙なる味付けは悪くないが、いかんせん薄すぎるような。昨夜が300円程度と思えば、まぁ味も量もこんなもんかという感じ。
テーブルの上には、豆板醤以外は知らない調味料が乗っていた。一通り味見してみたが、どんな料理だったら合うのか想像ができない。
箸立てには、おしぼり用の薄いビニールに個別包装された箸が詰まっていた。これ、もし使い捨てにしてるんだったら勿体ない。レンゲはペナペナのプラスチックで、尿検査のコップ並み。
僕が食事した店のテーブルには、この3点セットが必ずあった。もう少し上等なレストランだと違ったのかもしれないが、そういう店は行かずじまいだったので分からない。
豪華な食事を一人でするなんて、と思っていた。でも一度位は食べておけば良かったなー、と後になって悔やむ事になる。
食べて戻ってチェックアウト。まだ行き先を考えてないので、新源のフロントで女将から情報収集。日本語を交えつつ、筆談でやり取りする。
女将は答えに窮しているようだったが、とりあえず西山湾を勧めてくれた。近場で自然のある場所を、という僕の漠然とした要望からすれば妥当な意見だ。そこなら、観光スポットとしてガイドブックにも紹介されている。
いくら「観光地ではない場所に行きたいのだ」と言っても理解できないよな、地元の人が何とも思ってないような原っぱを尋ねているなんて。
何かの手掛かりになるかも知れないし、教えてくれた行き方を従って高雄火車站前まで行ってみよう。中南という会社の客運(バスターミナル)から公共汽車(バス)が出ているそうだ。そこなら目と鼻の先だった。礼を言って、新源を後にする。
站前まで行こうと思い、國光号客運を通りかかったらオバチャンに呼び止められた。道にでも迷ったかのと話を聞いていると、乗合汽車(タクシー)の客引きだった。下手な英語でも、気合で通じさせてしまうのは見事なものだ。
彼女は「墾丁(ken-ting)こそが、君の行きたい場所だ」と言う。うーん、鋭い読みだな。確かに火車(鉄道)では行けない、公共汽車よりも乗合汽車のほうが早いし快適だろう。
墾丁は、南端にある国家公園(国立公園)として知られている。海もあれば山もあって、まさに思い描くイメージの場所だ。だが僕はリゾートに来た訳じゃないし、国家公園内の宿は安くないと知っている。
整備されてなくていいから、なるべく高雄から離れ過ぎない辺りでそういう場所を捜してみたいのだ。何しろ台湾も一人旅も初めてなので、今回は慎重を期して動くつもりだった。
しかし、狙った獲物は易々と逃がしてくれないらしい。畳み掛けるオバチャンに、苦し紛れの方便で勘弁してもらう。少し移動して中南の客運を尋ねたら、そのオバチャンも客引きだった! うげー。
更にそれを見た最初のオバチャンが横槍アタック、三つ巴の早送り上方漫才と化してしまった。もーヤダ、一気に疲れて西山湾に行く気すら萎えてしまう。
(オバチャンパワー・おわり)
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