急きょ、彼が日本に来ると知って待ち合わせ場所に駆けつけたのです。
僕に連絡をくれたのは、現地で見た写真の女性でした(その辺は「立身編9・内心」にて)。
数年前にエドベンから来たメールに「この住所の女性に、自分のメールアドレスを連絡してほしい」とあり、誰だか分からずに手紙を出した相手が彼女だったのです。
あの当時、自分の前に居候していた日本人が何者なのか知る事が出来ず、でも(縁があればいつか会うよな)と思っていたのが本当になって驚きました。
で、彼女にエドベンからメールが来たのも急で、慌てて僕に連絡をくれたのでした。
エドベンとは、たまにメールでのやり取りをしていました。
エアメールだった頃は届いているのかも怪しかったものですが、メールになっても返事が来ない場合も(エラーで返ってくる事も)多くて、途絶えがちながらも交流は続いていました。
ただ、自分が再び行く機会はないだろうと思っていたし、彼も結婚したり仕事も忙しいようだから二度と会う事はないのだと思っていました。
僕としては今更パックツアーで行く気はしないし、エドベンのいないママの家で居候する図々しさもないし、何よりも完全禁煙になってしまった飛行機になんて乗りたくなかったからです。
だから、僕らの再会はビッグ・サプライズでした。
約5日間、エドベンは東京に滞在していました。
そして僕らと会う以外の時間は独りで、東京じゅうを歩き回っていたようです。
その日に撮ってきた写真をデジカメで見ながら、僕らは上野や表参道などで夕食を共にしました。
彼はアメリカの航空会社に転職し、満席でない便のファーストクラスを従業員価格で利用して来ました。本来は4日目に帰国する予定だったのですが、ファーストクラスに空きがなかったため(笑)1泊延長する事にしました。
「まるでハバナのトニーと僕じゃないか!」(その辺は「ハバナ!後編・1 一難去って…」にて)
そう言って、最後の夜は彼をスーパー銭湯に連れて行きました。
その前の晩、彼は「ヘルスセンターに行けなかったのは心残りだ」と言っていたのです。
彼の言うヘルスセンターとは、どうやらサウナとか温泉の一種のようだったので、せっかく1日伸びたのだから行ってみようと提案したのでした。
連日、歩き回っていた疲れを取る意味も含めて。
そして彼への誕生日祝いとして。
それは、ちょうど彼の誕生日の翌日でもありました。
12年前のその日、僕は静かなビーチで月光浴をしながら人生の不思議さを噛み締めた事を思い出しました(その辺は「水源編8・浜キャンプ/月光浴」にて)。
露天風呂に2人で浸かりながら、これもまた不思議な気分がしました。
もっとも、月光浴をしたのはトニーと僕で、彼は翌朝とんでもない悪戯を仕掛けてきただけですが・・・(その辺は「水源編9・プラジャ・チェムイル&岩場の池」にて)。
なんであれ、今もあの旅は続いているんだという感じがしたのです。
僕にとってはパック旅行ではない、初めての海外。
トニーに誘われて半信半疑で出かけた1ヶ月弱の滞在期間、毎日がドラマのようなシンドくも楽しい日々。
勤め人生活に挫折し、自信を失っていた僕に起こった奇跡のような年月の中でもハイライトの旅でした。
しかしそれも時が経つにつれて色褪せて普通の日々に変わって行ってしまった・・・そう思っていました。
あの年は(まぐれ当たり)みたいなもんで、まぁこんなもんかなといった気持ちになったりもしていました。
でも、そうではないんだ。
まだ終わってはいないんだ、そう思ったのです。
僕が旅を終わりにした時に、旅は終わるのだろう。
だから、もしかしたらまたママたちにも会えるかもしれない。
すっかり大きくなったディエゴやジョアンナにも。
ひょっとしたら、ハンバーガーの聖者にも・・・(その辺は「ハバナ!後編・9 ハンバーガーの聖者」にて)。
あの旅で与えられた多くのもてなしを、まだ僕は忘れていません。
アスタ・ラ・ヴィスタ!〈また会いましょう〉

